朝日新聞 昭和48年(1973)年9月28日 夕刊

全国新幹線網 主要閣僚 一斉に批判 ”独走”首相、不在の閣議 
 ヨーロッパを旅行している田中首相のる手中に開かれた28日の閣議で、首相”独走”の形で進められている全国新幹線網計画に対し、三木副総理、福田行政管理庁長官、小坂経済企画庁長官ら主要閣僚が一斉に批判の声をあげ、この問題をめぐって活発な議論が展開された。

 口火を切ったのは福田行官庁長官で、膨大な新幹線網建設は全国的な地下の値上がり、物価上昇につながりかねないとの立場から、「路線決定の手続きと見通しについて説明してほしい。大蔵、経企などと打ち合わせて慎重に行うべきだ」と述べた。福田長官の趣旨は、新幹線網建設そのものに対する是非というより建設計画の決定にあたっては物価、地価問題など経済政策全般にわたる広い配慮が必要というもので、6000キロにも及ぶ建設計画がそうした配慮や手続きを欠いたまま、短期間のうちに進められようとしている事態に懸念を表明したものだ。

 福田長官の発言に対し、新谷運輸相は「来月5日に予定している鉄道建設審議会に出す諮問案をつくっているところだ」と述べ、事務的な手続きについて説明した。

 福田長官は「大蔵省や経企庁とよく協議したうえ慎重に決めるべきだ」と述べ、とくに東北、九州など内定している5路線のほかに”西日本縦断”など追加路線の決定にあたり扱いを十分考慮する必要がある、と要望した。

 続いて小坂経企庁長官は「こうした路線決定は国土総合開発法など地価抑制策が軌道に乗ったあと行われるべきだ。地価対策なしの新幹線建設は地価、物価に影響する」との意見を述べた。

 これに対して金丸建設相は「全国高速道路網建設にあたっても同じような心配がある」といい、全国輸送網という観点から新幹線計画と高速道路計画を一体として進めていない実情に不満を表明、また三木副総理は、「新幹線建設に当たり特定の人物が不当な利益を得る恐れがあるので、こうした面での配慮が必要だ」と述べた。

 新幹線網建設については10月5日の鉄道建設審議会への諮問を前に、田中首相と鈴木総務会長との間で、すでに内定している5路線のほか追加路線がつぎつぎと実質的に内定された。この新幹線網建設は、首相の日本列島改造構想の柱とされているものだが、こうした路線決定のあり方に対しては、すでに野党ばかりでなく政府内とりわけ大蔵省、経企庁、あるいは国鉄当局からも強い批判があがっている。

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