朝日新聞 昭和48年(1973)年113日 朝刊

12新幹線」本決まり 鉄建審答申

 鉄道建設審議会(会長、鈴木善幸自民党総務会長)は2日、運輸省会議室で総会を開き、さきに新谷運輸相から諮問のあった12路線の新・新幹線の基本計画を諮問通り答申した。また、先月31日に開かれた同審議会小委員会がまとめた「12路線は緊要度に応じて段階的に建設せよ」などの付帯決議を、字句を一部修正して決定した。

 この日の総会で、12路線からもれた常磐(東京−水戸−いわき−仙台)、釧路(札幌−釧路)、紀勢(名古屋−新宮−和歌山−大阪)、中国横断(松江−広島)の4新幹線の取り扱いについて一部委員から質問があり、新谷運輸相は「重要な路線であるので引き続き調査、検討する」と答えた。

 北海道、北海道南回り、奥羽、羽越、北陸・中京、中央、四国、四国横断、山陰、中国横断、東九州、九州横断の12新幹線は60年度開業をメドに基本計画が作成されたものだが、一部路線については、トンネルや架橋工事が技術的に時間がかかり相当程度遅れることがはっきりしている。運輸省事務局では、常磐・釧路新幹線などについては、12路線と並行して調査を行う、としている。




中日新聞 昭和48年(1973)年113日 朝刊

12新幹線本決まり 鉄建審 諮問通り答申 

 鉄道建設審議会(鈴木善幸会長)は2日午後1時30分から運輸省で総会を開き、中央、羽越など12新幹線の「工事基本計画」を政府諮問案通り認め、新谷運輸大臣に答申した。運輸省はこの答申を受け、年内にも国鉄と鉄道建設公団に調査命令を出す段取りである。これによって全国新幹線網七千`が60年開業を目指してスタートする。七千`が完成すれば大幅な時間短縮が可能となる。

 しかし12路線の建設に当たっては7兆1千億円という巨額の経費を要し、しかも中央新幹線を除き、ほとんどの路線で赤字が見込まれるため、答申では特に付帯意見をつけ「緊要度に応じ段階的に建設を進める」ことなど、財政面に十分配慮するよう政府に求めている。

 12路線の総延長は3510`、用地買収費を含む総工事費はキロ当たり20億円で算定され、総額7兆1千億円となっており、60年までに全路線を完成させることは困難とみられている。

 建設が本決まりとなった12路線は次の通り。

北海道(札幌市−旭川市130`)
北海道南回り(長万部町−室蘭市付近−札幌市180`)
羽越(富山市−新潟市付近−秋田市付近−青森市560`)
奥羽(福島市−山形市付近−秋田市270`)
中央(東京都−甲府市付近−名古屋市付近−奈良市付近−大阪市480`)
北陸・中京(敦賀市−名古屋市50`)
山陰(大阪市−鳥取市付近−松江市付近−下関市550`)
中国横断(岡山市−松江市150`)
四国(大阪市−徳島市付近−高松市付近−松山市付近−大分市480`)
四国横断(岡山市−高知市150`)
東九州(福岡市−大分市付近−宮崎市付近−鹿児島市付近390`)
九州横断(大分市−熊本市120`)


財政圧迫、国鉄のお荷物に? 
【解説】
 総延長7千`に上る全国新幹線網建設計画が2日の鉄建審答申で本決まりとなったが、この国家的な大プロジェクトも膨大な投資による国鉄財政へのはね返り、さらには地価の高騰など多くの問題を抱えている。

 「60年までに12路線の建設を」といっても、実際には「工事能力からみて八割完成させれば上出来」(国鉄新幹線建設局)。したがって「緊要度に応じ段階的に建設を進める」ことになるわけだが、中央、羽越、四国などが輸送需要から、また北海道南回り、北陸・中京などが短距離で工事が容易なことからまず最初に取り上げ「遅くとも58年度までに開業したい」というのが運輸省の腹づもりのようだ。

 それにしても運輸省、国鉄は12路線のキロ当たり工事費を20億円と現在の1%アップ、物件費全体で60年までの年平均上昇率を3%(国鉄財政再建計画)しか見込まず、資金面からみると八割達成もおぼつかないところだ。

 仮に12路線がほぼ予定通り完成したとしても、収入見通しは中央新幹線を除いて黒字になるメドは当分立たず、”ドル箱”のはずの新幹線が逆に国鉄のお荷物になることも予想される。地価の高騰やインフレへの悪影響などは改めて指摘するまでもなく、「せめて国総法案」が成立してから決めて欲しかった」(経済企画庁)という意見も政府内部には多い。

 田中首相、鈴木自民党総務会長など推進派は輸送需要への対応、地域開発効果の期待などから一刻も早く実現へのレールに乗せる必要があるというが、たとえば「新幹線騒音を中央公害対策審議会がメドとしている65ホンまでに抑えることは当分技術的に不可能」(国鉄騒音対策室)な現状で着工することは、公害紛争のタネをまいてきた従来の高度成長路線への反省がみられないと批判されても仕方ない。

 この計画の実行に当たって、財政上あるいは公害対策のうえからも十分な配慮を必要とされよう。


今後も調査続ける 運輸相が表明 

 新谷運輸相は2日、閣議後の記者会見で、全国新幹線網計画に触れ「新幹線建設のため今後も調査を続ける」と述べ、昭和60年をメドに7千`の路線を完成したあともさらに新幹線建設を進めていく考えを明らかにした。

 これは同日の鉄道建設審議会総会で本決まりとなる12路線から漏れた地域から強い建設の要望があり、今後の地域開発や旅客需要の動向などから新路線建設の必要性が出てくることもあり得ると判断、それに備えて基礎的な調査を進める意向を表明したもの。

 調査の対象としては、札幌−釧路間、東京−水戸−仙台間、紀伊半島回りの名古屋−大阪間などが考えられている。


名古屋−大阪50分に 
 輸送時間の短縮の点では、昭和60年の日本列島はいまよりも一回り小さくなる―。国鉄の計画では、新幹線網が完成すると、東京−札幌間は三分の一余。大阪−鹿児島も12時間10分から4時間20分と短縮。また、名古屋−大阪は50分(現在1時間10分)、名古屋−富山は1時間40分(同3時間30分)、金沢までは1時間20分(同2時間40分)など日本全国がこれら大都市の1日行動圏となる。

 

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