朝日新聞 昭和48年(1973年)1030日 夕刊 

 東京−鹿児島7時間 新・新幹線網を鉄建審で説明 収支見通し 黒字まで長時間

 鉄道建設審議会(会長、鈴木善幸自民党総務会長)は30日午前、運輸省会議室で総会を開き、さきに新谷運輸相から文書で諮問のあった12路線の新・新幹線基本計画について審議した。審議に先立って運輸省は、諮問の背景となった旅客輸送の見通し、所要時間が在来線と比べどれだけ短縮されるか、収支見通し、などを説明した。この中で運輸省は、東京−鹿児島間7時間、東京−旭川間6時間40分で列車の往来が可能となることや、収支見通しについては、中央新幹線を除き、黒字になるのはいずれも相当時間がかかることもあきらかにした。

 運輸省の説明によると、旅客の往来のふえ方は、過去10年間の在来線の輸送量と通過地の県民個人所得の伸びなどを考慮し、これに新幹線による旅客湯発などを加えて算出した。これによる昭和65年度の旅客往来は、中央新幹線が一番多く、1167000人の旅客を運ぶことになる。一番少ないのは大分−熊本間の九州横断新幹線、松江−岡山間の中国横断新幹線の各11万人。

 12路線の所要時間が、これまで国鉄の一番早い列車(開業した新幹線を含む)よりどれだけ短縮されるか、は別図(注)の通り。新幹線網が完成すると、乗り継ぎの時間などを考えないと、東京−鹿児島が現在の15時間20分から7時間に短縮されるほか、東京−旭川間も現在の18時間40分かが6時間40分になる。この結果、ほとんどの県庁所在地は、東京または大阪から日帰り可能の時間帯にはいる。

 一方、収支見通しについては、開業当初(60年度と想定)から、減価償却費を差し引いても黒字になるのは中央新幹線だけ。そのほかの11路線については「相当後年度まで、償却後黒字にすることは難しい」と説明している。

 もうかる中央新幹線を含んだ12路線全部の収支見通しでは、開業後5年で「償却前」で黒字、11年度には「償却後」黒字になる見通し。しかし新幹線が黒字になっても、いまある国鉄の在来線は旅客を新幹線にとられる関係で赤字幅が大きくなる。新幹線と在来線を合わせた収支見通しとなると、「償却前」の黒字にも相当長時間かかる、という。これは破産寸前の国鉄の財政を、さらに圧迫する要因となる。

 〈注〉12路線の新・新幹線基本計画

 運輸省が27日鉄道建設審議会の委員に諮問したのは、
北海道(札幌市−旭川市)
北海道南回り(札幌市−室蘭市付近−長万部町)
羽越(富山市−新潟市付近−秋田市付近−青森市)
奥羽(福島市−山形市付近−秋田市)
中央(東京都−甲府市付近−名古屋市付近−奈良市付近−大阪市)
北陸・中京(敦賀市−名古屋市)
山陰(大阪市−鳥取市付近−松江市−下関市)
中国横断(岡山市−松江市)
四国(大阪市−徳島市付近−高松市付近−松山市付近−大分市付近)
四国横断(岡山市−高知市)
東九州(福岡市−大分市付近−宮崎市付近−鹿児島市)
九州横断(大分市−熊本市)
の各新幹線
12路線、総延長3510キロ。すでに決まっている新幹線計画を加えると総延長6970キロとなる。

 国鉄財政に”お荷物”

 《解説》はなばなしく打ち上げられた12新幹線計画は、運輸省事務当局は「収支見通しを立てようのないほどもうからない」と計画をあきらめるほどの赤字線ばかり。完成が60年度をメドとしたものではあるが、現在、11400億円(47年度末)の累積赤字を抱え、四苦八苦している国鉄財政にとって、また”お荷物”を背負いこませる結果となる。

 12路線よりも一歩計画が進んでいる北陸新幹線など5新幹線も、開業する54年度から57年度までの4年間に4000億円の赤字を生む、という。「償却前」で黒字に転換するのが60年度、「償却後」で黒字になるのは69年度というから、赤字の国鉄財政にとって、新幹線網の整備は雪だるま式に国鉄財政を悪化させるわけだ。

 国鉄は、今後定期的に運賃値上げをせざるをえないだろうし、値上げだけで赤字がなくなる見通しも全くない。結局は政府の資金、つまり国民の税金で終始をつぐなうことになる。政府は48年度を初年度とする国鉄財政再建十カ年計画で、政府資金を大幅に投入することを約束、実行している。国鉄財政の面からだけ見ると、新幹線計画は、国民の税金という水を、砂地にまいているようなものである。

 また、総工事費で71000億円にのぼる12新幹線の建設が、地下を高騰させる”引き金”となることは、十分予想される。

(注)時間短縮効果 図は省略
 記載された事項は次の通り

札幌−旭川
 
150⇒050 
札幌−室蘭
 140⇒040 
青森−新潟
 620⇒220 
青森−富山
 
940⇒330 
福島−秋田
 450⇒130 
金沢−名古屋
 250⇒120 
東京−大阪
 
310⇒240 
大阪−松江
 430⇒140 
岡山−松江
 310⇒050 
松江−下関
 
540⇒120 
大阪−松江
 550⇒200 
大阪−大分
 830⇒250 
岡山−高知
 
500⇒050 
北九州−宮崎
 520⇒130 
 


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