朝日新聞 昭和48年(1973年)1017日 朝刊 

自民内に微妙な影 全国新幹線網計画 強気で走る首相周辺 福田氏は根強く批判

 田中首相が列島改造構想の主柱として推進している全国新幹線網のうち、「西日本縦断」など追加十路線の基本計画組み入れについて16日、首相はじめ自民党執行部と福田行管庁長官との意見対立が改めて表面化し、政府、自民党内に微妙な空気がひろがってきた。首相はじめ自民党執行部は、追加路線の計画を29日の鉄道建設審議会に諮問し、あくまで推進する構えだが、福田氏は物価や地価へのはね返りといった見地からこの追加路線に根強い批判をもっており、同氏のこんごの出方が注目される。

 福田行管庁長官は、首相外遊中の閣議で追加路線の建設に慎重論を述べたが、16日の閣議後、その真意を伝えるため、改めて首相と会談「物価、地価、投機対策の見地から慎重に取り扱うべきだ」と申し入れた。これに対し首相は「物価、土地対策に配慮するのは当然」と答えたが、そのあと直ちに新谷運輸相と協議、結局、追加中路線は「建議」ではなく「諮問」という形で一気に基本計画の段階までもって行くことを決めてしまった。政府、自民党首脳は、予定していた17日の鉄建審議会での決着を29日にと、形の上で延期しただけで、結果的に福田氏の提言は無視されたわけである。

 一方、鉄道建設審議会会長として、全国新幹線網建設のとりまとめに当たっている自民党の鈴木総務会長は、こうした首相と運輸相との協議を受けた形で16日、運輸相や橋本自民党幹事長と取り扱いを話し合ったが、同日夕、記者会見の席上、質問に答える形で福田批判を展開「政府が決めた経済社会基本計画のわく内の構想であり、(福田氏の)安定成長論に立っても昭和60年ごろの物資輸送力を確保するためには不可欠な計画」と、その考えをくわしく述べ、福田氏への反論の姿勢を鮮明にした。

 重要閣僚の発言に対して、党三役の一人が公式の場で反論したのはきわめて異例のことである。

 鈴木会長の発言の趣旨は次の通り。

▽追加十路線は、今春閣議決定した経済社会基本計画のなかにも織り込まれ、国鉄の財政再建計画にもある七千キロの新幹線建設のわく内だ。全国の知事、市町村団体からも早急に計画を決めてもらう方が県勢発展計画を立てやすいし、用地の先行取得もできると希望してきている。

地価、物価問題はもとより配慮せねばならないが、追加路線はこれから調査し、整備計画をつくる段階であり、需要度の高いものから建設に入る。むしろ当面、地価や物価に直接の影響を与えるとすれば、17日に整備計画が決まる路線(北陸新幹線など)ではないか。これを2、3年繰り延べろというなら一つの見識だが、これは既定方針通り早くやれ、というのはどんなものか。

安定成長路線に立っても、60年ごろの国民総生産は300兆円台となり、膨大な物資を鉄道輸送するとなれば、早く新幹線網を整備して中、長距離の旅客を移し、在来線の輸送力を貨物に振り向けるのが当然ではないか。

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