朝日新聞 昭和48年(1973年)1016日 朝刊

新幹線網 10線も直ちに諮問か あす鉄建審 批判と参院選からむ

 新谷運輸相は15日、自民党本部で鉄道建設審議会会長である鈴木善幸自民党総務会長と会い、“西日本縦断新幹線”など新しく新幹線計画に追加する十新幹線建設問題について話し合った。新谷運輸相は、17日開かれる鉄建審で十新幹線を審議会が建議してくれるよう希望していたが、鈴木会長としては昨年11月、新幹線建設についての包括的な建議は終わっており、運輸相が同審議会に十新幹線の建設を明確にする基本計画路線を諮問すべきである、との主張を繰り返した模様である。

 鈴木会長は16日、田中首相と会い「建議」か「諮問」かについて首相の裁断をあおぐことになるが、運輸相が当初予定していた17日の審議会での「建議」は見送られ、17日か、その後に開かれる審議会に運輸相が「諮問」する形になる可能性が高い。

 運輸審議会は昨年119日に「新幹線網の建設、促進をはかるため、基本計画に組み入れるべき路線の調査をすみやかに開始すべきである」との建議を運輸相におこなっている。こうしたことから鈴木会長らは、十新幹線については「建議」の段階は終わり「諮問」の段階にはいった、と判断しているためで
@「建議」とした場合は将来、あらためて基本計画を諮問し直す必要があり、二重手間になる
A来夏の参院選挙対策としても一気に基本計画を決めたほうが有利だ、
などの理由から、「建議」を求める運輸相と意見が食い違っている。

 この取り扱いについては田中首相が裁断することになるが、新谷運輸相も「建議」には特にこだわっていない。しかし、十新幹線構想については、田中首相の留守中の閣議でも、一部の閣僚から批判の声が出ており、運輸相も「慎重にやります」と繰り返し答えている。「建議」ならば、時間かせぎもできるし、「諮問」までに、批判閣僚への“根回し”も可能だ。また、臨時国会での「国総法」の決着をまって行動できる、といった利点もあり、運輸相は「建議」の立場をとってきた。

 このため、同問題は来年の参院選を意識した自民党首脳の要求と、運輸省側の思惑に対し、田中首相がどう裁断を下すか、にかかってきたようである。

 十新幹線構想は、札幌−旭川、札幌−室蘭−長万部、秋田−山形−福島(奥羽新幹線)、富山−新潟−青森(日本海新幹線)、東京−甲府−名古屋市周辺−奈良−大阪、敦賀−岐阜羽島、北部四国、山陰、東九州、九州横断の十ルートで、大筋は田中首相と鈴木会長との間ですでに決まっている。しかし、ルート選びについては、各地の要求が複雑で、「建議」にしろ「諮問」にしろ、地名は○○市周辺といった表現になる予定。

 建議は諮問の前段階

 〈注〉新幹線の「建議」と「諮問」

 新幹線に限らず鉄道を建設する場合は、運輸相が鉄建審に「基本計画」を諮問、良否についての答申をえたのち、国鉄や鉄建公団に対して具体的ルート調査を命じる。調査が終わったら運輸相は再び「整備計画」を作って、鉄建審に諮問する。答申を受けたら運輸相は再び国鉄、鉄建公団に「工事実施計画」を作ることを命じ、駅名やルートが確定する。この「工事実施計画」を運輸相が認可してはじめて着工される。

 「建議」はこういった手続きに入る前の段階で行われ、普通は「建議」から第一回の「諮問」まで数ヶ月かかる。「建議」の場合は、抽象的な表現ですむが「諮問」の場合は、輸送需要の見通し、収支見通し、在来線への影響などを調査してまとめなくてはならないからだ。

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