朝日新聞 1972(昭和47)年1119日 朝刊

 鉄道先導で列島改造 国鉄再建で運輸省構想
  
新幹線を大拡充 10年間で60007000キロ建設 運賃4月から値上げ 

 総選挙後に予定される国鉄運賃値上げ、新財政再建対策について、運輸省は18日までに、その大筋の構想をまとめた。その骨子は@運賃値上げは48年4月とし、幅は旧計画(旅客23.4%、貨物24.6%)を上回らないA48年度から10年間に、延べ60007000キロの新幹線網を建設、整備するB地方閑散線(赤字ローカル線)の廃止は、旧計画の3400キロから大幅に減らし、1000キロ未満とする、などである。

赤字線廃止は後退

 また、国鉄のこの十年間の工事規模は、旧計画では7兆円だったが、新計画では10兆円以上にふくらみ、国鉄に対する政府の助成金も、旧計画では、10年間に出資1兆円、財政再建債の利子補給など1兆円の合計2兆円を見込んでいたが、新計画では倍増させたい、としている。同省としては、選挙後には原案を固めて年内にも政府案として決定したい考えである。

 国鉄運賃値上げと財政再建対策は運輸省の最大の課題で、第65通常国会で値上げ法案が廃案になったあとも、具体的な検討と国会提出の時期をねらっていた。先の臨時国会に再提出せよ、との自民党筋の意向もあったが、同省は、解散含みの政局をにらんで断念、総選挙後の通常国会で全力をあげて成立を図る作戦を立てた。

 新再建構想の最大の特色は、旧計画では@運賃値上げA国鉄の合理化B地方閑散線の廃止、三本柱による合理化をめざした“効率原則”を採用してきたのを大幅に転換、日本列島改造論に沿った鉄道拡大、ないしは鉄道先導による国土改造構想をとっている点だ。

 具体的には、旧計画では国鉄の財政再建問題だけにしぼってきたのを、こんどは新幹線網60007000キロの建設と、値上げ案を組合わせて、構想全体に前向きの姿勢を盛込んだ。この点については、先に鉄道建設審議会が、「今後十年間の鉄道建設計画を決めよ」と建議している。また、地方閑散線の廃止問題については、先の国会審議で最も反対論が強かったことに加え、日本列島改造計画に沿って地域住民の福祉を確保するため地方閑散線を見直す機運が出てきたことから、廃止計画を大幅に後退させることにしたものである。

 構想の一つの焦点である新幹線網については、田中首相や鉄道建設審議会が60年を目標に9000キロ案を唱えているが、運輸省としては、再建計画を旧計画より1年遅らせて4857年度とし、この間に60007000キロの路線を開業、あるいは着工したい考えだ。具体路線名については、旧再建計画で着工することが決っていた東北・北海道(盛岡−札幌)、北陸(東京−富山−新大阪)、九州(福岡−鹿児島)、九州(福岡−長崎)をこの期間中に開業させ、新たに山陰、四国、奥羽などの路線に着工したいとしている。また、第二東海道新幹線については、運輸省、国鉄は、この期間中にリニアモーター(磁気浮上)方式による新線の調査線組入れ程度に盛込みたい考えだ。

 新再建構想の最大の問題は、拡充した新幹線網の採算と地方閑散線や貨物部門の赤字問題だ。運輸省は、新幹線については東海道、山陽、東北(盛岡まで)の路線以外は全部赤字になるとみているが、国鉄の負担をできる限り軽くするため、日本鉄道建設公団に建設させ、国の助成を増やすとか、線路そのものは公共財とみなし、財政資金をつぎ込む、などの考え方を検討している。また、地方赤字線の温存については、国鉄自身は、福祉政策の立場から別勘定建てとし、財政資金をつぎ込めると主張している。

 こうした問題はあるものの、運輸省は、国鉄の独立採算制を維持するという建前を変える必要はない、としている。しかし、この計画を実施するとなると大幅な財政援助が必至となる。このため国鉄自身の性格を基本的に変える必要があるのではないか、との議論もあり、最終的には政府首脳の決断に任されることになりそうだ。


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