リニア中央新幹線整備計画 南アルプス工区の概要
(簡易版)

リニア中央新幹線は、東京〜大阪を最短ルートで結ぶために南アルプスを貫く計画です。

南アルプスは3000m級の山々が南北に連なる山岳地帯なので、必然的にトンネルだらけのルートとなります。

「トンネルなら何も問題ないんじゃないの?」

と思われる方が多いのかもしれませんが、そう単純ではないのです。

南アルプスは山梨・静岡・長野3県にまたがる広大な山岳地域です。
これまでこの山岳地域を横切る人工的な構造物は、北部を東西に横切る南アルプススーパー林道ただ1本だけでした。広大な中南部を横切る人工的構造物はいっさいありません。

リニア中央新幹線は、その南アルプスのほぼ中央を東西に横切る計画です。

 

これが南アルプス付近における概略ルートです。赤い点線部分がトンネルになります。


図1 南アルプスとリニア路線の位置関係
(2016年9月段階で明らかにされているもの)
 
  


路線の概略は…

山梨県富士川町最勝寺(標高280m)から丘陵地帯のトンネルに入る。ここの境目は市ノ瀬断層(活動度A級)とされる。
1本目のトンネルは長さ約800m。
三枝川で一瞬地上
に出て、2番目のごく短いトンネルを通り(図示されていない)、もう一度川を渡って3番目のトンネル(第三南巨摩隧道:長さ2520m)に入る。

富士川町の高下集落付近で地上に出て、350mほど地上を走行した後、4番目のトンネル(第四南巨摩隧道)に入る。これは長さ約8627mと長大であり、大柳川をごく薄い土被りでくぐりぬけ、早川町新倉にいたる。

早川の橋梁は長さ400m程度(約2.5秒)であり、高さは約170mと、とてつもなく高くなる。

早川の橋梁を渡ると5番目のトンネルに入る。

これが南アルプス本体の赤石山脈を貫く長大トンネル(南アルプス隧道)である。
この長大トンネルは長さが約25000mあり、早川流域から上り勾配(推定00.3パーミリ)で大井川流域をくぐり抜け、荒川岳直下からは下り勾配(推定0.4パーミリ)となり、小河内沢の下をくぐり、長野県大鹿村日向休という地点で小渋川の谷底に出る。
転付峠付近での土被り1000m前後、大井川上流部で450m前後、悪沢岳北方から小河内岳付近までが1000〜1400mとなっている。1本のトンネルを掘るために並行する先進坑、7本の斜坑、2本の発生土運搬トンネルが掘られる
 
小渋川の橋梁は長さ約250m、高さ70m程度である。

これを渡る(1〜2秒)と6番目のトンネル(伊那山地隧道)に入る。長さ15000mほどであり、途中で中央構造線を貫く。青木川、虻川といった川を、50m程度とごく薄い土被りでくぐりぬける。青木川を越えた付近から勾配は0.02パーミル程度になる。豊丘村・喬木村境の壬生沢川という川で地上に出る。500mほど地上を通り(約3.5秒)、7番目の短いトンネル(約200m)で河岸段丘を抜け、天竜川橋梁にいたる。
 
ちなみに最勝寺から天竜川の間、地上を走行するのは合わせて16〜17秒程度とみられる。



南アルプス横断 びっくり仰天内容
@トンネル総延長は126q 
先に述べたトンネルについて、一覧表にまとめてみました。列車の通るトンネルは合計52〜53qであり、これでも十分に長いのですが、実は作業用など関連トンネルのほうが長くて、合計約75q。合わせて130q近くにもなります

表1 南アルプス市〜豊丘村におけるトンネル計画(評価書に基づく)  
種別 位置または名称  長さ 
本坑 (断面積108u)  最勝寺−畦沢のトンネル 

 ※800m

  畦のトンネル 

 ※50m

  第三南巨摩隧道 

 2,520m

第四南巨摩隧道 

8,627m 

  南アルプス隧道 

25,019m 

  伊那山地隧道 

15,300m 

  阿島付近のトンネル 

 ※200m

本坑 合計約 52,500m

先進坑 (55u)  南アルプス隧道に平行 

※25,000m

その他のトンネルにも設けられるかは不明 先進坑合計 少なくとも 25,000m

斜坑 (68u) 富士川町小室 

300m

  早川町青崖東 

 1,800m

  早川町青崖西 

 2,500m

  早川町広河原 

 3,900m

  静岡市二軒小屋南 

 3,500m

  静岡市西俣

 3,100m

  大鹿村釜沢東 

 2,000m

  大鹿村釜沢北 

 400m

  大鹿村上蔵

 900m

  大鹿村青木

 700m

  豊丘村坂下 

 1,300m

  豊丘村戸中 

 1,000m

斜坑 合計約 21,400m

保守施設連絡トンネル(規模不明) (注1) 富士川町高下地区 

※6500m 

工事用道路トンネル(50u)(注3) 早川町青崖地区 

※500m 

静岡市西俣斜坑〜燕沢 (注2)

 ※4,000m

導水路トンネル (10〜20u) (注3) 静岡市西俣直下〜椹島 

 ※11,000m

早川芦安連絡道路 (山梨県とJR東海の共同事業) 南アルプス市・早川町境 

※3,750m 

県道松川インター線改良(長野県とJR東海との共同)  中川村西下地区 

878m 

  中川村四徳地区 

1201m 

県道三ツ峰落合線へのトンネル新設  静岡市三ツ峰付近

 ※4000m

その他の関連トンネル 合計約 31,800m

トンネル合計  

約 130,700m

※は評価書など各種資料から推定
その他のトンネル長さは事業認可申請書類より
(注1)具体的位置や構造については2017年1月時点でも不明。環境影響評価書では存在が示されず、工事入札において、存在が示唆されたもの。
(注2)評価書では2本であった。2015年11月30日、JR東海は工事用道路トンネルについて1本に変更する計画を発表。
(注3)環境影響評価手続き終了後、平成29年1月に事後調査報告書にて建設計画を公式発表。
各トンネルの位置についてはこちらを参照 



A発生土量は約1500万立米以上
環境影響評価書に記載された発生土量をまとめました。

表2 南アルプス市〜豊丘村における発生土量 
  搬出場所  発生土量(万立方ートル) 
南アルプス市  各所 

小計 160,000

富士川町  小林地区 

 51,000

  最勝寺地区 

 642,000

  高下地区 

 1,819,000

富士川町 小計 2,512,000

早川町  青崖東の斜坑

 940,000

  青崖西の斜坑 

 840,000

  広j河原の斜坑 

 1,480,000

  切土

3

早川町 小計 3,290,000

静岡市  2斜坑・工事用道路トンネル・導水路

3,700,000 

  県道トンネル新設 

推定300,000 

静岡市 小計 4,000,000 

大鹿村  釜沢東・釜沢西 

 1,600,000

  上蔵 

750,000 

  青木 

650,000 

  切土 

5

大鹿村 小計 3,050,000

豊丘村  坂下地区

1,000,000

  戸中地区 

55,000

  源道寺地区 

700,000

豊丘村 小計  2,340,000

JR東海の直接事業による発生土量合計  

約15,400,000 

山梨県・長野県とJR東海の共同事業

推定400,000〜500,000

・早川芦安連絡道路を除き、数字は評価書記載事項に基づく。
・静岡市内の発生土量については評価書作成時では360万立方メートルであったが、その後、計画が二転三転し、2017(平成29)年1月の事後調査報告書では370万立方メートルとなった。
・なお発生土の処分計画についてはこちらのページを参照していただきたい。

表2のとおり、南アルプスを横断する南アルプス市、富士川町、早川町、静岡市、大鹿村、豊丘村において、関連工事も合わせると1500〜1600万立方メートルもの発生土が生じます。東京ドーム一杯で126万立方メートルですから、実に12杯分です。ちなみに、ユネスコエコパーク登録地域内へは1050万立方メートル前後となります。


B大井川沿いの河原と森をつぶし、長さ・幅500q、高さ70mにわたる巨大盛土を造成。

南アルプス山中にて非常に大規模な土地改変を行う計画ですが、具体的な環境アセスメントが実施されていません。また大規模な山崩れの直下であり、土砂の流動に与える影響も不透明として、地元行政や専門家などから懸念の声があがっています。

燕沢付近の大井川(2014年10月 南アルプスを訪問された方よりご提供頂きました)
写真右側の森林をつぶし、最大高さ70m、長さ・幅約500mにわたって発生土で埋め立てる計画。

C長野県大鹿村内での大型車両通行台数は、1日1700台以上
作業が1日8時間なら17秒に1台の割合。村のメインストリートはダンプカーが占拠することになります。間違いなく生活に支障が出るものの、JR東海としては「騒音は基準を下回りますので問題ありません」という姿勢。

 
D南アルプス複数の河川で流量が大幅減少するという予想
静岡県の大井川はじめ、早川町の内河内川、大鹿村の小河内川、豊丘村の虻川といった河川と交差するため、河川水の漏出が懸念されます。アセスにおける試算では、大井川本流で毎秒2トンの減少(約3割減)、小河内川で毎秒0.51トンの減少(約5割減)、内河内川で毎秒0.27トン減少(約6割減)との予測。
 特に大井川流域では生活用水にも大きな影響を及ぼすおそれがあり、強い懸念が出されています。

E早川橋梁は前例のない規模  
とても険しい早川の峡谷に架けられる橋は、長さ350m、高さ170m程度とみられます。きわめて急峻なV字谷なので、おそらく山腹内をえぐって地下に作業用地が設けられるのでしょう。
 
F鉄道建設の環境アセスメントで、ふつうこんな植物名が出てくる?
ゴゼンタチバナ、タカネフタバラン、クルマユリ、ツバメオモト、オサバグサ、メタカラコウ、マルバダケブキ、ヤマイワカガミ、ハリギリ、トモエシオガマ、イワオウギ、ナナカマド、ミネザクラ、オサバグサ、ダケカンバ、オオシラビソ、コメツガ…
名前を聞いて姿をイメージできた方は植物通あるいはベテラン登山家。いずれも相当な山奥に行かねば見ることのできない植物ですが、こういう植物相の場所で工事を計画しているわけです。ちなみに静岡県内の現地調査において見つかった植物756のうち、ざっと見て2〜3割は亜高山帯の植物種。


Gユネスコエコパーク制度との整合性がとれていないし、とろうともしていない。
 
 南アルプスは2014年6月に、ユネスコエコパークとして登録されました。ユネスコエコパークは厳正な環境保全の要求される核心地域、それを守るための緩衝地域、持続可能な自然資源の利活用の許される移行地域とで構成されています。JR東海は、工事は全て開発の許される移行地域で行われるから問題はないという認識を示していますが、それは移行地域の概念を曲解したものではないでしょうか?⇒詳細はこちら。 


H環境影響評価がきわめていい加減 
知事意見を無視している、論理破綻、矛盾、調査不十分…枚挙にいとまがなく、静岡県区間が事業認可後4年半と経た2019年でも着工できずにいる根本的な原因となっています。
⇒静岡県編評価書における問題事項 簡易版 詳細版 


I行政が環境影響評価の簡略化を手助け?

リニア建設にともなう発生土については、JR東海がその取扱いについて、環境影響評価を行わなければなりません。ところが山梨県早川町においては、発生土を県が大半を出資する道路建設事業での建設資材に位置付け、県が使うことから環境影響評価の対象から外れてしまいました。この道路建設事業はJR東海も出資するとともに、南アルプスの山中で大規模な工事をおこなうことから、このような進め方には問題があります。
 
 
 


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