大井川の流量減少はいつから予想していたのか? 

JR東海が考案した導水路計画では、流量を保全できる確証がありません。また導水路出口より上流の広範囲に対応することはできません。

 根本的に事業計画を見直さねば、有効な対策は見つからないかもしれません。

 ところで、ルートの決定過程において、大井川への影響はどのように検討されてきたのでしょうか。それを振り返ると、奇妙なことに気付きます。

 中央新幹線の事業主体・建設主体、ルート、走行方式などを審議していたのは、国土交通大臣から諮問に基づいて設置された中央新幹線小委員会です。平成22年12月25日の中間取りまとめ案で、はじめて南アルプスルートが妥当であるとの見解が示されました。

 それに先立つ10月20日の第9回委員会にて、伊那谷ルート、南アルプスルート双方の環境調査結果と称する資料が配布されています。http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/tetsudo01_sg_000086.html

 一応、「水環境調査」と称する資料が出されていますが、そこにはルート近傍を流れる河川の水質基準と、著名な湧水(名水○○の類い)の分布を示した図が掲載されているだけでした。

 このとき、大井川については水質基準の指定状況が示されただけです。 




 平成23年5月12日に、答申が出されます。このときルートは幅25qで示されています。図では3ルート案が示されていますが、本文中で南アルプスルートが適当であると書かれています。そして同月27日に建設指示がJR東海に出されます。


答申に掲載されたルート案 


 6月からJR東海による環境影響評価手続きが始まります。最初に公布された配慮書でも、ルートは答申と同じく25q幅で示されていました。

 同年9月の方法書では、そこから3q幅に狭められて示されています。この時点で、大井川の水源をなす西俣(にしまた)に沿ったルートであること、斜坑を設けるつもりであることが示されます。単純に考えれば、トンネルは河川から離した方が水への影響は小さくなるでしょうし、斜坑を設置することにより、余計に湧水が増えると考えられます。

 しかしルート絞り込みにおいて、大井川への影響を考慮していたのかは明記していません。



方法書で示された幅3qルート案 



 そして平成25年9月の環境影響評価準備書において、トンネルを掘った場合に大井川の流量が2㎥/s減るとの試算結果が出されました。


静岡県版 環境影響評価準備書より 

 この結果を受けた流域自治体や利水関係者の間には衝撃が走り、流量保全を求める声が高まりました。しかし結局、環境影響評価手続き内では、具体的な対応方法を示さぬままでした。くだんの導水路案がJR東海から提示されたのは、事業認可後の平成27年4月のことです。

 ここまでの経緯について、表面上は環境影響評価手続きで調査・予測をしたところ流量減少が予想されたので、遅まきながら事業認可後に導水路案を提示した、ということになります。

 ところが、補正評価書(平成26年8月29日公告)で最終的に出された図表からは、必ずしもそうといえないのでは?という疑念が浮かんできます。

 次の表は、流量予測の検証に使用された実測地点です。予測にあたり、実際に観測したデータと試算値とを照合して予測の信頼性を高める必要がありますが、その際に用いた実測データの取得状況になります。

 注目すべきは、流量観測を開始した時期です。国土交通大臣が建設指示を出したのは平成23年で、アセスはその後に始まります。ところがJR東海は、それより5年前の平成18年から流量調査を開始していたのです。

 建設指示前から調査をしていたこと自体は特に問題ありませんが、しかし、なぜ調査をしていたのでしょうか?

 常識的に考えれば、トンネル工事と河川流量との間に何かしら関係があると考えていたためでしょう。ならば、なぜここで取得したデータは中央新幹線小委員会において配布されなかったのでしょうか。

 また、アセス前から調査を開始していた地点を地図に表すと、準備書(平成25年9月)で判明するトンネルルートと一致します。



上…配慮書で示された25q幅ルート内の大井川水系河川
下…アセス開始前から流量観測を開始していた地点

 特に2006年に調査をしていた点だけを地図上に示すと、見事に導水路ルートと一致します。下に拡大して掲載します。
 繰り返しますが、答申での南アルプスルート案は幅25qの帯で示されていました。その中には奥西河内川、赤石沢、聖沢、日影沢、倉沢、所の沢など多数の河川が存在します。その中から、後々トンネルや導水路のルートと一致する河川だけを前もって選んで観測地点を設置していたとは不可解です。

したがって、

 「JR東海・国土交通省どちらもトンネル工事が大井川の流量に影響を及ぼすものと予想し、後々の導水路設置を視野に入れながら流量観測を行っていたが、その事実を伏せたまま南アルプスルートを採用し、なおかつ大井川への影響が大きくなる西俣沿いのルートを選んだ」

 という可能性が出てきます。 意地悪く考えると、「ルートも構造もあらかじめ決まっていた。南アルプスルートの採用に当たり都合の悪い試算結果は同ルート決定後まで伏せていた。」のかもしれません。

 いずれにせよ、JR東海は今のところ、ルート選定における河川への影響の検討状況を明らかにしていません。それが公表されなければ、流域の人々としては協議をもつことさえ難しいでしょう。

 

トップページに戻る


inserted by FC2 system